スタッフ・ブログ:「コロナ感染者が出たNPOから見習いたい姿勢」
認定NPO法人 茨城NPOセンター・コモンズ
常務理事・事務局長 大野 覚
※ 前回のスタッフ・ブログ:「寄付は強制されるものではない。共感、『共生』だ」はこちらをご覧ください。
新型コロナウイルスの感染者数の再拡大のニュースに、日々暗い気持ちになる中、NPOでも実際に感染する人が出てきました。
詳しくはこちらのページをご覧いただきたいと思いますが、大阪府大阪市西成区の釜ヶ崎にあるNPO法人 こえとことばとこころの部屋というところです。
釜ヶ崎と聞いてピンとくる人も多いかと思いますが、いわゆる日雇い労働者の街です。7~8年ほど前だったか、大阪である研修があったついでに、仲間のNPO関係者と一緒に、このNPOが運営している釜ヶ崎芸術大学という活動にふらっとお邪魔したことがあります。
ホームレスや日雇い労働者の、地域のおっちゃんたちと一緒に、ゆるやかにゲームをしながら交流するようなワークショップをその当時は行っていました。
芸術というワードに、ある意味一番縁が遠そうな、触れる機会が少なそうなホームレスという要素を掛け合わせて、参加の入り口は気軽にしながらも、福祉というものについて改めて考えさせるような、そんなNPOらしい、非常にユニークな活動を行っている団体だと記憶しています(記憶違いだったらすみません)。「こういうNPOもあるのか、さすが大阪」と思いました。
NPOは多様性というものを大事にしています。活動に少し参加させてもらいながら、「当たり前だけど、ホームレスだって同じ人間なんだ」、「ホームレスの人だって、芸術を楽しんで何が悪いんだ」と頭を殴られて問いかけられているような錯覚を覚えました。一緒に楽しくゲームをしながら、ホームレスとそうじゃない人というくだらない垣根を心地良く壊されているようにも感じました。
それが結局は、ホームレスに対する眼差しを変えることにもつながるだろうし、福祉を真正面からではなく捉え、でも確実に人の意識を変えることにもつながる活動だと思いました。こういうNPOこそ大事にしたいなと感じました。
また、ホームレスという存在にアートを「アウトリーチ」させる手法として、とてもユニークだと感じましたし、芸術の奥行き、可能性を感じました。アートを志す人たちだからできる活動なのだと思います。
さて、だいぶ遠くなってしまった本題に話を戻して(すみません)、そんな素敵な活動を継続してきたNPOにも、ゲストハウスに宿泊した方から新型コロナウイルスの感染者が出たそうです。私も上記のページの情報しか持ち合わせていません。
コモンズではこれまで、新型コロナウイルスに全国の市民活動団体がしっかり対応できるよう、様々な情報提供を行ってきました。感染予防や感染者が発生した時の対処方法など、市民活動に関係する様々な活動分野別のガイドラインなども全国のNPO関係者などによって策定されており、それらをまとめた一覧などをコモンズで作成し、発信してきました。
せっかくですので、この一覧にあり、一番活動内容が近い以下のガイドラインに照らし合わせて、このNPO法人が取った対応がどのようなものだったのかを見ていきたいと思います。
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会など(2020年5月14日)「宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン(第1版)」
と書いたものの・・・、改めてこのページを読んでみると、取られた対応と、上記のガイドラインをつぶさに見比べたわけではないけれども、取られた対応はその時その時で最善を尽くされたものだと、少なくとも私には感じられました。むしろ、よくここまで考え、調べ上げ、対応できたものだと感心すらしました。
もっとも素晴らしいと思ったのが、この間の経緯を丁寧にまとめ、積極的に情報公開されたことです。「もっとも頭をかかえたのは、このことを公表するのかどうか、するとすればどうするのか、ということです」という文章が書かれており、悩み抜いた末、でも結局はここまで丁寧に発信した姿勢には、とても誠意を感じましたし、一市民として応援したいと思いました。
非常に気になっていたのが、いわゆる「自粛ポリス」のような存在の人が、ネット上でこのNPOを袋叩きにしてしまっていないか、ということです。私が調べた限りでは、現時点ではそのようなことも起きておらず、むしろツイッターでの発信には多くのハートマークがクリックされていました。
一つ一つの丁寧な対応、また包み隠さず発信した姿勢が評価されてのことでしょう。多くのNPOにとって、もし自分の支えている市民やスタッフ、関係者に感染者が発生したらどうすべきかを考える、素晴らしいお手本だと思います。私などが評価するような真似をするのもおこがましく感じます。
上記のページを読んで、思い出した言葉があります。「ウイルスよりも本当に怖いのは人だ」です。元々は「おばけよりも本当に怖いのは人だ」で、戦争や悲しい事件のニュースが日々流れる中、人間の醜い部分の方がおばけよりもずっと怖い、ということを表現した言葉だと思います(どこで聞いたか忘れましたが)。
ネットでの中傷で袋叩きになった女子プロレスラーが、自死と思われるかたちで亡くなりましたが、新型コロナウイルスにおける自粛ポリスも、結局は似た背景があるのではと感じます。残念ながら、女子プロレスラーの死、またその後の報道をもってしても、人の意識や行動は根本的には変わっていないと感じざるを得ません。
感染者は加害者ではなく、被害者です。もちろん感染を広げることにつながってしまったり、感染が不注意な行動による帰結かもしれません。しかし、感染して苦しんでいる同じ人間を非難する傾向は、非常に悲しく感じます。
それが結局は、感染を公表しなかったり、上記のような素晴らしい対応を取って積極的に発信したNPOの方ですら、躊躇させることにつながってしまっています。感染経路不明者数が増えているのも、恐らく同じ背景があるのでしょう。
日本は非常に同調圧力の強い国であり、それがいじめや偏見、ひいては生活困窮や貧困状態にあるなど課題を抱えた方の生活を息苦しくさせたり、行動を制限することにつながってしまっていると感じています。
子ども食堂などでよく問題となる、いわゆる「貧困のレッテル貼り」問題も同じです。田舎に行けば行くほど地域の目が気になって、もしくは自分が貧困状態にあるとの自認を強要されることにもつながり、また貧困が社会的に非常にネガティブに捉えられているため、貧困のイメージが付きまとってしまう子ども食堂には困っていても、行きたくても行けない、という現象です。
それを払しょくしようと、子ども食堂は誰が来ても良いところだよ、と多くの子ども食堂関係者は発信しています。もちろん、対象を限定した子ども食堂も少数派ではありますがしっかり活動に取り組まれています。どちらが良い悪い、ではなく、どちらも素晴らしい活動をされています。
困っていることを、困っていると言えない、言いにくい「空気」感がある日本社会が、結局は弱い者いじめにつながる社会的構造を抱えています。NPOは、特に今回このような辛い状況となってしまったNPOが変えようとしているところは正にそこ、人の潜在的な(差別)意識なのではと改めて感じます。
ぜひこちらのページも見ていただきたいと思います。そもそもこのNPOは、コロナ禍によってかなりの収益減となり、組織として危機的状況にあるのだと想像します。そんな大変な状況の中で新型コロナウイルスの感染が発生したにもかかわらず、歯を食いしばって、このように丁寧に対応し、発信するNPOをぜひ応援しようではありませんか。決してネットで叩いたり、非難したりせぬよう。
最後に、上記のページで気になったこのNPOの言葉を紹介したいと思います。このNPOだからこそ伝えられる、とても重い言葉だと私は受け取りました。反芻して、その問いかけ、その背景にあるものを今一度考えてみたいと思います。
「でも、この世を一瞬たりとも落ち度なく生きることなどできるのでしょうか。そして、そういう場面に多くさらされるのは、どちらかというと弱い立場の人々ではないでしょうか。」
こちらもぜひお読みください。
桑田萌(2020年6月17日)『まいどなニュース』「『日雇い労働者の街』釜ヶ崎で営む表現活動...『ココルーム』が存続危機のためクラウドファンディングを実施」
茨城NPOセンター・コモンズは、組織の壁・心の壁を越えて、人がつながり、ともに行動する社会を目指します。